せぴあ色したおもちゃ

Jack in the BOX

 

   かげぼうし 詩的・私的考察  そよ風の贈り物  くもの巣の虜  
あかね色の郵便箱
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*麗しき 合点な人*

夏中、ずっと中刷りや駅前の広告で是非とも行かなくちゃと
思っていた美術展に出かけてきました。

でも、出かけるのにほんの少し勇気がいりました。

案の定、諦めてしまった道の亡霊が現れて
アンニュイを引きずる事になったのですが・・・

大好きな画家の絵画展がパリにある彼の美術館の100周年の
改装で、資金集めも兼ねた遠征をしているようです。

イタリアに絵の模写に出かけた以外、
芸術の都、パリにずうっと居座り、死しても
彼の作品は国の宝として美術館と言う
おもちゃ箱にすっぽり胡散無償する事なく収まっています。

日本も職人さんに優しい国で職人芸の芸術性を
とても尊敬する良い国です。今、日本で安く
中国やアジアで制作された物品が手に入るのは彼の国では
技術の芸術性を認めていないのもあるはずで、
安い賃金で消耗品のように使われているのかな。

対するにフランスは自国の文化を誇示し
いやになる位プライド高く、ほんのちょっと前まで
例え外国語を理解していても決してフランス語以外で
返事もしてくれなかった国でした。

EUの一員になった事で、少しだけ
敷居が低くなったようです。

文化芸術への真摯で愛いっぱいの態度は
見習うべきでしょう。

何せ、とても不器用なので、そういう一芸に秀でた人に
憧れてしまう私です。日本では芸術家は
いいパトロンを手に入れるまで汲々とした生活を
しているようで、伝統と認められてもその膨大な努力を
思うと進んでその世界に身を置く人が少なくなっています。
ちょっとだけ、嘆かわしいけれど、世の中がそう進むならば
なくなるのも運命なんだろうな。

小学生の頃、上野の西洋美術館で見つけてから、
その世界に私も嵌りたいと傾倒した絵描きさんです。
私には才能がこれっぽちもなくって
美術史でもいいからと思ったのですが、
フランス語の女性名詞や男性名詞の変化の多様性に目を回して
渋々諦めた苦い想い出があります。
才能と言う壁を叩き壊す根性も機転もなかった私です。
おたく文化ではないけれど、収集癖とか、その世界観に
どっぷり浸かる、突き抜け感は未だに羨ましく思います。

19世紀に『夢の中にしか、現実は存在しない』と言い切った
フランスの詩人ボードレールと同時代に
幻想世界に嵌っていた絵描きでした。

ギュスターブ・モロー(1826-98)

彼は作品同様に、風変わりな人生を送った人物です。
19世紀、パリが劇的に変化を遂げた時代、
その活気に後押しされるように、芸術界にも
写実主義や印象主義という新たな波が起こった
そんな時代に、「私は神しか信じていない。
手に触れるものも、目に見えるものも信じない。
目に見えないもの、ただ感じるものだけを信じている」
一度見たら忘れられない幻想的な独自の世界を描き続けたのです。
そしてアトリエを自ら実験室と呼んでいた。

変にグラフィカルな装飾の線が多用され
焦点が色んな所に変化しているようで
ぼやける人物像や風景が一種独特の雰囲気を
醸し出していて、惹き付けられて止まない。

歴史画家であろうとした心意気が
内面世界をもっと際立てて彷彿させたんじゃないかな。

モローは若い頃から、ギリシャ語ラテン語に造詣が深く
その物語の世界にずうっと浸っている事ができた人でもある。

物語を解っていないと理解できない小難しさが
敬遠されつつも、圧倒的支持を得ていたのは確かです。

モローは歴史画家として忠実に物語を描くだけでなく
美しくも官能的な衣を着せ、象徴的な意味を訴えてきます。

モローの油絵は圧倒的力技で私を魅了するのですが
膨大な過程の習作の量や、覚え書きとして描かれた
水彩の 風景画にはっとさせられます。
きっと画家としての審美眼にあった
とっておきの風景なんじゃないだろうかな。

印象派の流れにひたすら背を向けて
美術館で模写ばかりして、でもモデルの写真も
残っていて、モローの構図へのこだわりや
自分の世界観を表すまでの過程には
ちゃんとのその時代の最先端を取り入れていた。

順風満帆に絵描きであり、後に自分の家を美術館として
生きた証をそのまま維持できた幸せな人です。

そこでは、奇跡のような創造の現場を盗み見れます。
1890年代の始め、モローは40年以上住んできた自宅を
美術館に改築することを計画します。作品の数は1万4000点以上。
その中には膨大な量の未完成の作品も含まれていました。
そうした未完成の作品を含めた全ての作品を
モローは公開することを願ったのです。
まるで自分の実験の手の内を全て解き明かすかのように・・・。

ホームページとは美術館のようなものかもしれない。
ただ、残念な事に死と供に消滅する運命なんだけれどね。

こんなに簡単に自分の城を持つ事ができる幸福を噛み締め
努力と言う私に欠けている2文字を探してみる。

ひとつの作品が産み出されるまでの膨大な習作と
類い稀な構図に唸り、ギリシャ神話と聖書から蘇る
思想とか普遍的な薫り、退廃と欲望などの負の感情が
きらびやかに表現されている。

構想が全てではないけれど、世界観を構築する
思想がどうしても素通りできない何かを語りかけてきます。
艶かしいエロティシズムと東洋趣味と血のような赤と
装飾的なデザインが焼き付いてはなれません。

モローの一枚と言われたら、ファム・ファタルである
一連のサロメもユニコンも抜かせないのですが
『ケンタウルスに運ばれる死せる詩人』かな。

モローの世界と人生の深淵はとても似ています。

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